「健さんが通った喫茶店」
 一見、外観は喫茶店に見えない。通り過ぎてから「あれっ」と何だか気になってくる。そして扉を開いたら、深みのある別世界が広がり、そのギャップが面白い。
地下鉄鞍馬口駅から北へ歩いて5分ほど。昭和41年に創業した店の壁には、俳優の高倉健さんからの贈り物であるフランスの名優「ジャン・ギャバン」のパネル写真が飾られている。45年ほど前、健さんが、撮影の合間によくコーヒーを飲みに来たそうだ。「今日は夜11時ぐらいになるけどいいですか」と電話があると、店は遅くなっても開いて待っていたという。健さんは、ギャバンがよく見える席に座って、ブラックコーヒーを物静かに飲んでいたそうだ。店ではコーヒーはブレンド1種類だけで、飲みやすい味にこだわっている。すぅっと飲めて毎日通いたくなる味。
 アンティークのおぼんで作られたテーブルや、白と黒の市松模様の床はレトロな空間を際立たせている。健さんがここで煙草をふかしたら、それだけで映画のワンシーンになりそうな雰囲気。そんな花の木では、かつてお客さん同士が店で出会ったら「麻雀やろうか」「ドライブ行こうか」と遊びに出掛けたそうだ。同じ店に集まる者同士、どこか気が合って、すぐに溶け込めたのかもしれない。人の輪を広げるのではなく広がっていく時代だったのだなと思うと、その大らかさがいいなぁと思う。携帯やパソコンが普及している今は、そんな光景も少なくなっているという。
 2代目オーナーの奥さん・門田範子さんは、10代の頃、遠目で健さんを見ては胸をときめかしていたお客さんだった。「この店のここが好きというのではなく、全部が好きなんです」と、ハスキーボイスで両手を広げながら話した。
花の木
075-432-2598
京都市北区小山西花池町32-8
午前8時~午後6時
定休日:日祝、祭日