「情熱的な こだわりの一杯」
 ポタポタとお湯を落としてはとめる。店主の王田洋晶さん(32)は、腰をかがめて、豆がたっぷり入ったネルドリップを見つめるが、なかなか滴は落ちてこない。しばらくすると、一粒ずつのように落ち始め、この作業を丹念に繰り返すこと15分。「お待たせやで」と、陶芸家のお父さんが焼いたカップに珈琲を注ぐと、お客さんはほほ笑む。
 ここは、京都御苑から南へ歩いて5分ほどの場所にある「自家焙煎 王田珈琲専門店」。東京で出会ったネルドリップの味に魅了され、ほんまもんの味を後世に残していきたいとの思いから、2010年に珈琲専門店を開いた。御幸町通と夷川通の交差点にあり、ゆったりとした空気が流れる落ち着いた地域だ。
 店では、ブレンド(600円)で35グラム、ブレンドデミタス(1000円)で85グラムの豆を使用。一般的には10グラムほどというから、豆の量はかなり多い。初めて一口飲んだとき、こんなにぬるくて濃い珈琲があることに驚いた。しかし、通っていくうちに、ちびっとずつ飲むようになり、
この店でしか味わえない円やかさに気付き始めた。この度数の高いお酒のような味の秘訣は、豆の選定や配合、火の入れ方、抽出方法にあるという。豆は、ブラジル・ガテマラ・パプアニューギニアの三ヵ国から取り寄せて深煎りするが、ブラジルだけは浅煎りも用意。こだわりは、焙煎した豆を新鮮なまま使用せず、わざと約20日置くところ。そして注文が入ると、深煎りのなかに浅煎りを少し加えて細挽きし、鏡で裏側の沁み込み具合も確認しながら、
80度ほどの低めのお湯をゆっくりゆっくりとドリップに落としていく。鏡を使うのは、ろ過層が崩れることを防ぐためだ。「最初の方に、美味しい味がでるんです。ピュアなところだけを抽出したいので、どこで切るかが見分けどころですね」と、ポットを持ちながら決まった姿勢で構える。
 11時の開店早々、カウンターに座っている男性は、「20年以上、日本中の珈琲専門店を巡っていますが、この味はトップクラスですね」と、 2杯目をお代わり。関東から京都へ出張に来るたびに立ち寄るという。ほかにも、毎年1月になるとアメリカから訪れるというお客さんもいるように、珈琲愛好家が集まってくる場所なのだ。
 もし、この店で「アメリカン下さい」などと言うものなら、間違いなく押っぽり出されてしまうだろう。一杯に注がれる王田さんの情熱が、美味しさの秘訣。ほかにない珈琲を、ゆっくり味わえるひと時は幸せだ。
自家焙煎 王田珈琲専門店
075-212-1377
京都市中京区御幸町通夷川上ル松本町575-2
午前11時~午後11時
金・土・祝前日 午前0時まで
定休日:月曜日(祝祭日は営業)