約50席ほどの店内には、1台150万円ほどする木製のスピーカーが2台置かれ、全ての椅子が、そのスピーカーの方へ向いている音楽会形式のレイアウト。イタリアの室内楽団「イ・ムジチ」が初来日した際に、イギリスから運ばれたというチェンバロも置かれている。
一番前の席に座った。黒革のソファは、ふわふわと柔らかく、目をつぶり音楽を聞いていると、そのまま眠ってしまいそうになる。壁側には、ランプ付きの一人机もあり、学生さんがクラシックを聴きながら勉強をしている。
8000枚ほどあるレコードリストのなかから、聴きたい曲をリクエストすることもできる。5線譜のリクエストノートにカラヤン指揮のベートーヴェン「交響曲第7番」と書いた。自分が選んだ曲を、離れた席で本を読む人と共有して聞くことができる空間は新鮮だ。ギターを爪弾く切ない音楽が流れたりすると「誰がリクエストしたんだろう?」と気になってくる。普段は自宅で聞くことが多いため、そんな見ず知らずの人との音楽の分かち合いが面白い。クラシックが好きな京都在住の有名人たちも常連客という。
枚方から訪れたという中高年の男性は、「家でもホームシアターを作ってレコードを聞いていますが、音が全然違うので、ここで聴きたい1曲が出てくるんです。古いレコードも聴きにきたり。一人の時間をリラックスして味わえますね」と目を細めた。
ダイナミックで柔らかい音色に包まれ、そこはまるで別世界。気がつくと、その日私は4時間過ごしていた。
(関西音楽新聞5月号より)