「炭火で豆を焼く珈琲店」
 ばん珈琲店は、1973年(昭和48)鴫野で創業し、10年ほど前に、いまの森ノ宮へ引っ越ししてきた珈琲店。
 「味を決めるのは8割くらい焙煎やと思ってます。炭火で、じっくりと豆をしんまで焼く。これがこだわりですね」。大きな目を細めて話す店主の村上峰人さん。豆をゴシゴシ洗って充分乾燥させる。そして、番頭さんのように、店の入り口に置いた焙煎機で、毎朝、炭火で豆を焼いている。出来上がった豆は、炭のように真黒。だが、飲んでみると、深い味わいのなかに、ほのかな甘さが広がる。ブレンドのメニューは、B Type(20g・100cc)、C Type(30g・80cc)、ばんブラック(40g・60cc)とあり、タンザニア、グァテマラ、ブラジル、マンデリン、コロンビア、マタリ・モカなどの豆を使っている。
 “ばん”という店名は、版画家、奥山儀八郎の木版画「かうひい異名熟字一覧」に載った「波无」からとったもの。村上さんはその版画を私に見せながら、1783年、蘭学者の林蘭梯が書いた「バンとはアラビア語の豆にして英語のボーン也」と書かれた文を指差してくれた。
 ヨーロッパの廃屋をモチーフにした店内には、120年前のイギリス製のテーブルや椅子が置かれている。ほかにも、色合いからして古そうなミルや焙煎機も、あちらこちらに飾られている。なかでも目にとまるのは、1933年(昭和8)に作られたアメリカ製アンティークレジ。50セント単位となっているボタンを押すと、「ジャーーン!」という大きな音とともに、レジ箱が飛び出す仕組み。珈琲店なのにレジの取材を受けて、つい村上さんがやきもち焼いてしまうほど評判も良い。
 窓からは大阪城公園の緑が見えて、この店で過ごしていると、穏やかな気持ちになってくる。そして、やや甘さを抑えた奥さんの手作りケーキは、口のなかがとろけてしまうほど美味しい。きっと、コーヒーとケーキの味の相性がいいのだろう。ケーキの種類は日替わり。その日その時、どんなケーキを食べられるのか楽しみだ。 夫婦で40年間続いてきた珈琲店。ばん珈琲店の前には、今日も旗がはためいている。
ばん珈琲店
06-6942-1020
大阪市中央区森ノ宮中央1-16-21
12時~19時
定休日 水曜日
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